産後に体が妊娠前の状態に戻っていく回復期を「産褥期」と言います。この期間は、体の痛みや心の変化など、さまざまな症状が現れることも。
この記事では、産婦人科医監修の元、産褥期がいつまで続くのか、どのような症状があるのか、そして快適に過ごすためのヒントを紹介します。
<この記事で分かること>
産褥期に起こる症状・・・産褥期は体や心に変化がある!
産褥期に無理すると・・・現在だけでなく将来にも影響がでる可能性がある!
産褥期にやってはいけないこと・・・産褥期はNG行動が多いので注意が必要!
産褥期の過ごし方・・・時期によって過ごし方が異なる!
成城松村クリニック院長/日本産科婦人科学会専門医
松村圭子
広島大学医学部卒業。
同大医学部産婦人科学教室入局。
2010年成城松村クリニック開院。
月経トラブルや更年期障害などの婦人科診療のほか、サプリメントや漢方、各種点滴療法などのメディカルケアも行う。『女性の悩みはFemtechで解決! オトナ女子のためのカラダの教科書(宝島社)』
『これってホルモンのしわざだったのね(池田書店)』 など著書多数。
松村先生の監修した記事一覧
https://kodomonosiro.jp/specialist/specialist-1920/
産褥期(さんじょくき)とは
産褥期とは、出産後に体が妊娠前の状態に戻っていく期間のことです。個人差はありますが、体が元の状態に戻るまでの期間は6〜8週間程度といわれています。
妊娠中は赤ちゃんを育むためにママの体は大きく変化します。子宮は20〜30倍にまで大きくなり、骨盤も広がります。ホルモンバランスも大きく変動するため、妊娠中は心身ともに大きな負担がかかります。
産後のママの体は全治2ヶ月の交通事故に遭ったときと同じくらいのダメージを受けているといわれています。そのため、この期間は無理をせず、ゆっくりと体を休ませることが大切です。
産褥期に起こりやすい症状
産褥期にはさまざまな症状が現れることがあります。産褥期に起こりやすい、具体的な症状をチェックしてみましょう。
悪露(おろ)
悪露(おろ)とは、出産後、子宮が元の大きさに戻ろうとする際に、子宮の内側から血液や古い組織などが混ざった分泌物が排出されることです。
主に、胎盤が剥がれた傷からの出血や子宮内膜、排出しきれなかった胎盤の一部などが混ざった分泌物で、生理とよく似ています。
産後すぐ〜1ヵ月頃まで続き、徐々に色や量が変化し、やがて消失します。個人差はありますが、悪露の変化の目安は以下の通りです。
【悪露の変化の目安】
時期 | 色 | 量 | 特徴 |
---|---|---|---|
産後すぐ | 赤色 | 多量 | 鮮やかな赤色をしている甘酸っぱいような匂いがする |
産後3~5日頃 | 暗い赤色 | 多量 | 粘り気があってドロドロしている塊(かたまり)が出ることもある |
産後5日~2週間頃 | 褐色 | 中程度 | 量が減ってきて、生理時と同程度の量になるややサラサラとしている |
産後2~3週間頃 | 黄色 | 少量 | 量が減少し、黄色みのある分泌物が出る剥離した粘膜が混ざる場合がある |
産後4週間頃 | 白色 | ごく少量 | 白っぽいおりもののような分泌物が出るほとんど量が出なくなり、消失する |
子宮収縮の痛み
出産すると、急激な子宮収縮が始まり、「後陣痛」という陣痛のような痛みを感じます。後陣痛は産後2〜3日がピークとされており、徐々に痛みを感じにくくなります。
授乳中に分泌される「オキシトシン」というホルモンには子宮収縮を促す働きがあるため、授乳時には後陣痛が強くなることがあります。
外科処置(会陰切開・帝王切開)の痛み
会陰切開や帝王切開の外科処置を受けた人は、産後に傷の痛みを感じる場合があります。
回復するまでの期間は個人差がありますが、会陰切開の痛みは産後1週間程度で軽くなり、1カ月程度でほぼ治ることが多いです。
帝王切開の場合は、産後1〜2日は子宮収縮の痛みと重なって強い痛みを感じることがありますが、産後2週間程度で治まってくることが多いです。
便秘・痔
産褥期は腸の動きが低下し、便秘になることも少なくありません。
出産時の出血や悪露、授乳による水分量低下、生活リズムの変化や慣れない育児による自律神経の乱れなどが原因になりやすく、便秘が悪化すると痔を引き起こすこともあります。
腰痛
出産後は骨盤の関節が緩んだり、お腹を支えていた筋肉が弱ったりして、腰に負担がかかりやすくなります。
特に、赤ちゃんのお世話で長時間同じ姿勢をとったり、抱っこを頻繁に行ったりすると腰痛を引き起こしやすいので注意が必要です。
マタニティブルー
出産後は、ホルモンバランスの変化や育児の悩みなどから気持ちが不安定になる「マタニティブルー」を引き起こす場合があります。
マタニティブルーになると、突然涙が出てきたり、イライラしたり、気分が落ち込んだりすることも。また、不眠や動悸、倦怠感、頭痛などの体の不調を感じる場合もあります。
マタニティブルーは、多くの女性が経験する一時的な心の状態であり、通常は2週間程度で自然に改善します。しかし、産後うつとの見分けが難しい場合もあるため、2週間以上症状が続く場合は、早めに医師に相談しましょう。
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産褥期に無理するとどうなる?
出産後の体は、まだ回復途中にあり、とてもデリケートな状態です。この大切な時期に無理をしてしまうと、以下のような思わぬトラブルを引き起こす可能性があります。
<傷の悪化>
免疫力が低下するため、感染を起こしたり、会陰切開や帝王切開の傷がなかなか治らなかったりする可能性があります。
<悪露の増加>
出産で傷ついた子宮に負担がかかり、悪露が長引いたり、量が増えたりすることがあります。
<体の不調>
疲れやすくなったり、めまいや頭痛がしたり、マタニティブルーが悪化したりする可能性があります。
<将来の健康への影響>
子宮や骨盤底筋の回復が遅れることで将来、子宮脱や尿漏れなどの原因になる可能性が指摘されています。
産褥期は、ゆっくり休んで体を回復させる大切な時期です。無理をせず、周りの人に頼りながら穏やかに過ごしましょう。
産褥期にやってはいけないこと
ここからは、産褥期にやってはいけないことを紹介します。
重労働な家事や就業
<家事について>
産褥期は骨盤や子宮への負担をかけないように、ゴミ捨てや買い物、お風呂掃除などの重労働な家事は避けましょう。
産後は水仕事は避けた方が良いといわれていますが、昔の習慣なのでそれほど神経質になることはありません。ただし、体の冷えを防ぐために、冷たい水に長時間触れるのは避けた方が良いでしょう。
<就業について>
産後すぐに職場復帰したいママもいるかもしれませんが、原則として産後8週間は就業が禁止されています。
やむを得ない場合は医師の許可があれば産後6週間から復職可能ですが、できるだけ無理をしないようにしましょう。
入浴
入浴は会陰や帝王切開の傷口に雑菌が侵入するリスクがあるため、産後1ヶ月程度はシャワーのみにし、湯船に浸かるのは控えましょう。
体を温めたいときは、足湯に浸かるのがおすすめです。
長距離の外出
基本的に産褥期は外出を控え、1ヶ月健診で医師から健康状態に問題がないといわれてからお出かけするのが良いでしょう。
長距離の外出は体への負担が大きいので、出かける用事がある場合はなるべく短時間で帰宅することが大切です。
激しい運動・ダイエット・骨盤矯正
産後は体重や体型を早く戻したいと思うかもしれませんが、激しい運動やダイエット、骨盤矯正などは避けましょう。
1ヶ月健診で医師に問題がないと言われてから始めるのがベストです。
産褥期に体を動かしたいときは、体の回復を促す産褥体操を行うのがおすすめです。
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性行為
産後の性行為は、1ヶ月健診で医師から許可が出るまで控えましょう。
帝王切開の場合は、産後2ヶ月頃が目安です。
無理に性行為をすると腟炎や子宮内膜炎などのリスクが高まるので医師の判断に従いましょう。
産褥期の過ごし方
産褥期は安静にするべきといわれても、どのくらいセーブすれば良いのかわからないというママもいるでしょう。
時期別に産褥期の過ごし方を紹介しますので、目安にしてくださいね。
【〜産後2週間】身体をしっかり休める
産後2週間までは身体をしっかりと休めて、育児に専念することが大切です。
家事は家族に協力してもらい、できるだけベッドや布団に横になって休みましょう。
家族のサポートが難しいときは、宅食サービスや家事代行サービスを利用することを検討してみてください。
【産後3~4週間】簡単な家事から再開する
産後3〜4週間頃になって体調や回復状態が良ければ、食事の用意や洗濯など簡単な家事から再開してみましょう。
人に頼るのが苦手な人は、身体を動かせるようになってくると無理をしがちです。
身体の回復を最優先に考えて、疲れを感じたらすぐに横になって休む、なるべく家族や周囲の人の力を借りることを心がけましょう。
【産後5~8週間】様子を見ながら日常生活に戻る
産後5〜8週間頃になると、子宮が元に戻り、さまざまな症状が治まってきます。様子を見ながら日常生活に戻りましょう。
ただし、完全に体や体力が回復するには3ヶ月〜1年はかかります。
動けるようになったからといって油断をせず、体調を優先して慎重に行動しましょう。
産褥期に無理は禁物!周囲の助けを借りて身体をしっかり休めよう!
産後のダメージが残っている産褥期に無理に体を動かすと、体調を崩したり回復が遅れたりする恐れがあります。
出産前に家族やパートナーに産褥期について理解してもらい、産後サポートしてくれる体制を整えておくと良いでしょう。
もし、産褥期を過ぎても気になる症状がある場合は、かかりつけの医療機関を必ず受診するようにしてください。
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