眠っていた子どもが突然泣き叫ぶ「夜驚症」。
なだめたり抱きしめたりすると、余計ひどくなるため、戸惑う親御さんは多いでしょう。

この記事では、子どもに異変をもたらす「夜驚症」について解説します。

夜驚症になりやすい子どもの特徴や、夜驚症を引き起こす原因、治療法を把握して、対処できるようにしましょう。

監修医師 東京シティクリニック大山 白井 沙良子
白井 沙良子

白井 沙良子

慶應義塾大学医学部 卒業 / 小児科医として、都内クリニックにて勤務

株式会社Kids Publicにて、小児科・産婦人科へのオンライン医療相談を運営 / 毎日新聞「医療プレミア」にて毎月連載

目次

夜驚(やきょう)症とは?

まず、夜驚(やきょう)症とはどのようなものなのか確認しておきましょう。

夜驚症は睡眠障害の一種で、「睡眠時驚愕症」とも呼ばれます。

夜驚症の発作時は脳が覚醒しきっていないため、子どもは起床時にそのときの行動を覚えていません。

夜驚症の特徴を詳しく見ていきましょう。

子どもが夜中に泣き叫ぶ

夜驚症の特徴は、夜、眠っているときに突然パニックを起こして、恐怖を感じている様子で泣き声や叫び声を上げることです。

荒い息をして、汗をかくこともあります。
脳が完全に起きていないため、周りがよく見えておらず、話しかけても反応が鈍いことがほとんどです。

目覚めたあとは、そのときのことを覚えていないのも特徴です。

夜驚症が出やすいタイミング

夜驚症の発作は、寝始めてから1〜3時間後ほどで起こることが多く、一般的には深い眠り(ノンレム睡眠)の段階で発症します。

症状は数分〜15分程度続き、発作がおさまると、何事もなかったかのように眠りにつきます。

3歳から8歳の子どもに発症する

夜驚症は3歳から8歳くらいの子どもにみられ、5歳前後がピークです。
思春期になると自然に症状が出現しなくなることがほとんどですが、まれに成人になっても続くことがあります。

夜驚症を経験する子どもは1〜3%程度だといわれています。

夜驚症と似ている夢遊病とは?

夜驚症と同じ「睡眠時随伴症」に分類される障害としては「睡眠時遊行症(夢遊病)」があります。

発症時は夜驚症よりも行動範囲が広く、寝ぼけたまま歩き回ったり、ときには着替えはじめたりと、不思議な行動をとることもあるのが特徴です。

夜驚症と夜泣きの違い

夜中に泣くというと、夜泣きを思い起こす人は多いでしょう。

夜泣きは主に新生児期から乳児期と、夜驚症よりも早い時期に起こります。
睡眠サイクルが安定しない時期のため、眠りが浅くなりがちで、覚醒しやすくなることに起因するといわれています。

さらに、起きたときに不安を感じてしまうと、それを自分で落ち着かせる術をまだ持たないため、泣いてしまうのです。
夜泣きの場合、親御さんが抱っこしたり、あやしたりすると泣き止むことがあります。

夜驚症になりやすい子の傾向はある?

「うちの子はどうやら夜驚症みたい。でも周りの人から同じ症状で困っているという話は聞いたことがない」という人は、「なぜ、うちの子が?」と心配になるかもしれません。

そうなると、夜驚症になりやすい子の傾向というものはあるのか気になるところでしょう。

夜驚症の場合、なりやすい子の傾向があるというわけではなく、以下のような「きっかけ」がもとで夜驚症を起こす子どもは多いです。

「夜驚症」のきっかけ
  • 強いストレス
  • 不安や緊張
  • 疲れ など

お子さんが頻繁に夜驚症を起こす場合、上記のようなことを日常的に感じているからかもしれません。

発達障害と夜驚症に関連はある?

発達障害と夜驚症のような睡眠障害は、複数の研究で関連があると報告されています。

これは発達障害があると脳の発達に偏りがみられること、また、感覚過敏などでストレスを感じやすく、不安や緊張が強いことなどが関係するといわれています。

ただし、睡眠障害があるからといって、必ずしも発達障害があると断定されるわけではありません。

夜驚症の原因

夜驚症になりやすいとされる子ども、夜驚症を発症する子どもは、はっきりしないながら、夜驚症につながると考えられている原因と、何かしらの接点がある場合が多いです。

主な原因は以下の3つです。

「夜驚症」につながる原因
  • 未発達な脳
  • 日中のストレスや興奮
  • 睡眠不足

それぞれ詳しくみていきましょう。

未発達な脳

夜驚症が起こるひとつの原因として、子どもの脳の機能が未発達なことが考えられます。

それにより、脳が休んだ状態の「ノンレム睡眠」と、脳が活動している状態の「レム睡眠」のバランスがうまく取れず、さらに、眠りからの覚醒もコントロールできません。

すると、ノンレム睡眠中に、なんらかの興奮が脳に与えられた際、スムーズに覚醒できず、脳が完全な活動状態にならないままパニックに陥って、夜驚症が起こります。

未発達な脳が関連していると思われるケースがあるからこそ、成長に伴い脳が成熟すると、自然に治ることがあるのです。

日中のストレスや興奮

日中のストレスや興奮なども夜驚症の原因になるとみられています。

恐怖だけではなく、例えば遊園地が楽しすぎて興奮したという場合でも、夜驚症の引き金になることがあります。
過度なストレスや興奮は、脳を興奮状態に保つため、夜驚症の原因になりうるのです。

ほか、下記についても、夜驚症の原因になると考えられています。

「夜驚症」になりうる原因
  • 発熱、体調不良
  • 騒音
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 薬の副作用(向精神薬・精神安定剤・睡眠薬など)
  • 遺伝

睡眠不足

睡眠不足も夜驚症の原因になりうるとされています。

睡眠を十分に取れていなかったり、睡眠のリズムが崩れていたりすると、神経系のコントロールがままならず、夜驚症を引き起こすきっかけになると考えられています。

夜驚症に限らず、睡眠不足は子どもの成長にも悪影響をおよぼすため、早めの対策が必要です。

「母親の愛情不足のせい」は本当?

インターネットで夜驚症について調べると、「母親の愛情不足のせい」というワードが目に付くでしょう。

しかし、ママに限らず、保護者の愛情不足が直接的な要因にならないと考えられています。わが子が夜驚症を発症すると、「育て方が悪いのかも」と心配になるかもしれませんが、どうぞご安心ください。

覚えておくべき夜驚症の対処法

お子さんが夜驚症の発作を起こしても慌てないように、覚えておくべき対処法を紹介します。

主な夜驚症の対処法は以下のとおりです。

「夜驚症」への対処法
  • なだめずに見守る
  • 危険をなくす
  • ストレスを軽減する
  • しっかり睡眠をとらせる

それぞれ詳しくみていきましょう。

なだめずに見守る

夜驚症の最中は、子どもを無理に起こしたり、なだめたりすることはやめましょう。
なぜなら、夜驚症の症状を悪化させる可能性があるからです。

なだめたり抱きしめたりしても、子どもが余計に暴れたり、興奮状態に陥ったりする恐れがあります。
本人は覚醒していない状態なので、呼びかけても反応しません。

無理に起こそうとせず、落ち着くまで見守ってあげましょう。

翌朝になると本人は何も覚えていないことがほとんどです。
しかし、もしも子どもが夜驚症の体験について話してきたら聞いてあげましょう。

危険をなくす

夜驚症の発作が起こっているときは、周りが見えなくなっているため、怪我をするリスクがあります。

そのため、日頃から寝室に危険がないよう整えておきましょう。

例えば、

  • ベッドから落ちないようにガードをつける
  • ベッドの周りに物を置かない
  • 家具の角にクッションをつける
  • 滑りやすいものを床から取り除く

などです。

ストレスを取り除く

日中に受けたストレスを取り除くことも予防や改善につながると考えられます。

お子さんが強いストレスを受けないようにする、ストレスの解消法を教えてあげるといった方法をとってみましょう。

しっかり睡眠をとらせる

睡眠不足は夜驚症の引き金になると考えられているので、予防策として、しっかり睡眠をとらせることは効果的です。

以下、年齢別の推奨睡眠時間を参考に、お子さんが年齢に適した睡眠時間を確保できるようにしましょう。

【年齢別】推奨睡眠時間
  • 幼児(1~2歳)⇒11〜14時間
  • 未就学児(3~5歳)⇒10〜13時間
  • 学童期(6~13歳)⇒9〜11時間

参照:
Hirshkowitz, Max, et al.(2015).National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary.Sleep Health,1(1),40-43.

お子さんが規則正しい生活リズムを保つためには、親御さんの支援が必要です。

リラックスして眠りに就けるよう、寝る時間が近づいたら明かりを暗くしたり、本を読んであげたりと、入眠儀式を取り入れるとよいでしょう。

夜驚症で受診すべきケース

夜驚症は思春期になると基本的に治まるものですが、それを待たずに受診すべきケースもあります。

ひと晩に何度も発作を起こす、1回の時間が長い

夜驚症が起こるのは、ひと晩に1回くらいの場合がほとんどです。

しかし、何度も引き起こす場合や、1回あたりの時間が数十分と長い場合は受診することをおすすめします。

パパママが疲れてしまった

何度も発作が起こったり、時間が長かったりすると、お子さん自身もそうですが、親御さんが疲れてしまうことも少なくありません。

「ご近所の迷惑にならないか」といった心労も積み重なると参ってしまうでしょう。

そんなときは我慢せずに、医師に相談しましょう。

怪我をしそうなほど激しく暴れる、発作を起こすたびに嘔吐するなど、見守るだけでは不安な場合、他の症状を併発している場合は、医療に頼った方が安心です。

夜驚症の治療法は?

夜驚症について相談したい場合は、小児科もしくは睡眠外来を受診しましょう。

主な治療法は、以下のとおりです。

「夜驚症」の治療法
  • 心理療法: カウンセリング、家族療法
  • 薬物療法: 漢方薬、睡眠薬などを使用

基本的には治療の一環として、夜驚症を起こす原因と考えられる要素を取り除くための「環境調整」を自宅で行います。

症状が重い場合は心理療法を実施し、それでも改善に向かわない場合は薬物療法を行うことがあります。

子供の状態や症状に合わせて、医師が適切な治療を選択するので、症状を具体的に説明しましょう。

お子さんの夜驚症には落ち着いた対応を

夜驚症の発作を起こしたお子さんを目の前にすると、慌ててしまうのは当然です。
しかし、夜驚症の対応として最も大切なのは落ち着きです。

お子さんが怪我をしないよう、危ないものを周りから取り除き、おさまって再び眠るまで、冷静に見守るようにしましょう。

夜驚症を引き起こす原因に思い当たることがあるという場合は、ご紹介した対処法を実行し、予防や症状の軽減を目指しましょう。

夜驚症になりやすい子の特徴に我が子が当てはまると、愛情不足なのかもしれないと落ち込む親御さんがいるかもしれません。
ですが、育て方が直接的な原因になることはありませんので、ご安心ください。

夜驚症により、お子さんだけではなく、親御さんの日常生活にも支障が出ている場合は、迷うことなく、小児科や睡眠外来に相談しましょう。

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