授乳について情報収集をしていると、「差し乳」という言葉を見聞きする人は多いでしょう。
医学的な用語ではありませんが、時期が来ると多くのママが体験する、とあるおっぱいの状態を指します。
この記事では、母乳不足?とママが心配する原因になる「差し乳」と、あわせてよく聞く「溜まり乳」についても解説します。
馬場 敦志
宮の沢スマイルレディースクリニック
経歴 筑波大学医学専門学類卒業
現在は宮の沢スマイルレディースクリニック(札幌市)院長として勤務
専門は産婦人科
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差し乳の特徴とは?
早速ですが、差し乳の大まかな特徴は以下の通りです。
- 授乳しなくても、おっぱいがあまり張らず、基本的にやわらかい
- 赤ちゃんが吸うと、きちんと母乳が出る
- 搾乳では母乳が出にくい
さらに詳しく、差し乳について確認していきましょう。
授乳しなくてもおっぱいが張らない
差し乳になると、授乳しなくてもおっぱいがあまり張りません。
乳房がやわらかいことがほとんどです。
しかし、赤ちゃんが吸うと母乳は出ます。
おっぱいが張ると熱を持ってしまうなど、張りが強いことに困っていたママは、差し乳になると楽になるでしょう。
ただし、赤ちゃんが吸わないと母乳が出にくいので、搾乳がしづらいです。
そのため仕事などで外出している間は、搾乳しておいたおっぱいを与えてもらう、ということが難しくなります。
搾乳が難しい場合は、自宅では母乳、外出で授乳できないときはミルクなどと、混合にすることも検討しましょう。
おっぱいが張らなくても、母乳は常時つくられている
差し乳になると、おっぱいが張らないので「母乳がつくられていないのでは?」と気になるかもしれません。
しかし、差し乳でも24時間母乳は生産されています。
母乳量には個人差があるものの、赤ちゃんが吸うときに合わせてつくられているわけではありません。
ただし、授乳する回数が減ると、母乳分泌も減少することを覚えておきましょう。
なお、赤ちゃんに吸われると母乳が出やすいのは、オキシトシン反射の影響です。
オキシトシンはホルモンで、おっぱいの筋肉を収縮させる作用を持ちます。
赤ちゃんにおっぱいを吸われるとオキシトシンの分泌量が増えるため、母乳が出やすくなるのです。
差し乳はいつからなる?
差し乳になるママが多いのは、授乳のリズムが安定しはじめる生後3ヶ月頃です。
ただし、個人差があり、産後すぐに差し乳になるママもいます。
徐々に差し乳の状態になる場合もあれば、急におっぱいが張らなくなる場合もあり、同じ月齢の赤ちゃんを育てているママ同士でも、状態が異なることはよくあります。
周りにおっぱいが張って困っているママが多いと、張らなくなったママは不安を覚えるかもしれません。
しかし、人によって差し乳になる時期は異なるので、必要以上に心配しなくて大丈夫です。
差し乳で搾乳してもあまり量が出ないときの対処法
差し乳になると、搾乳では母乳が出づらくなるケースが多いです。
母乳をストックするのに苦労するママは多いでしょう。
そんなときは以下の対処法を試すと、母乳が出やすくなるかもしれません。
- おっぱいが張りやすい朝一番に搾乳する
- おっぱいを蒸しタオルで温める
- 日頃から水分や食事をしっかり摂る
- 疲れやストレスの解消を心がける
搾乳の方法を見直す
上記の対処法を試しても母乳が出づらい場合は、搾乳の方法を見直すと出やすくなる可能性があります。
以下の搾乳方法を試してみましょう。
この方法を試しても搾乳がうまくいかない場合は、搾乳機の利用を検討するのもひとつです。
もしくは、ミルクの利用も検討しましょう。
母乳について悩むことがストレスとなり、育児等に影響が出ているなら、ストック分をミルクへ切り替えるだけでも、時間的にも気持ち的にも余裕ができるはずです。
赤ちゃんの食事はいずれ離乳食へと移行するため、母乳はあくまでも一時的なものと考えると気が楽になるでしょう。
ただし、授乳を通して触れ合うことで、赤ちゃんが安心を得られている面もあります。
そのため、ミルクを利用するようになったら、意識的にスキンシップを増やし、赤ちゃんの気持ちをケアするようにしましょう。
差し乳と母乳不足の見分け方
差し乳になると、おっぱいが張りにくくなるため、母乳が不足しているのではないかと思いがちです。
しかし、前述した通り、母乳は24時間つくられていて、赤ちゃんがおっぱいを吸うと出ます。
赤ちゃんが健やかに成長できる量を与えられていれば、母乳不足ではありません。
では、母乳不足の場合、どのようなことが起こるのか、見分け方を確認しましょう。
排せつの回数
母乳不足の場合、排せつの回数に影響が出ます。
- 薄い黄色のおしっこが1日6回以上
- うんちが1日1~2回
上記の回数くらい排せつがあり、毎回おむつがしっかり濡れるくらいの量が出ているなら、母乳不足ではないと考えてよいでしょう。
ただし、おしっこが濃い黄やオレンジに近い色なら、水分不足の可能性があります。
その場合は医師に相談してみましょう。
体重の増加具合
母乳の量が足りないと、体重の増加具合に影響が出ることがあります。
生後1ヶ月の場合、個人差はありますが1日に30gほど増えていれば、母乳は不足していないと思ってよいでしょう。
また、1ヶ月ごとに体重を記録し、グラフにしてみて、母子健康手帳に掲載されている「乳児身体発育曲線」に沿うように体重が増えていれば問題ありません。
もしも体重があまり増えなかったり、むしろ減っていたりする場合は、ほかの要因が関係している可能性もあるので、助産師や小児科医に相談してみましょう。
おっぱいへの吸いつき方
赤ちゃんがおっぱいに吸いついたまま、なかなか離れない場合、母乳が足りていないのかもしれません。
多くの赤ちゃんは、満足すると自らおっぱいを離すからです。
長時間吸いつかれたままだと、乳首がふやけて傷つきやすくなり、切れてしまうことがあります。
水分を意識的に摂るようにするなどして母乳を出やすくし、短時間の授乳で済ませられるようにしましょう。
差し乳と溜まり乳の違い
差し乳とあわせてよく聞くのが溜まり乳です。
溜まり乳は差し乳とはまったく違い、正反対の状態を指します。
溜まり乳はおっぱいが張る
溜まり乳になると母乳がつくられすぎて、人によってはおっぱいが痛くなるくらい張ってしまいます。
授乳すると基本的に張りは落ち着きますが、赤ちゃんが十分満足するほど母乳を飲んでも、おっぱいの張りがおさまらない状態になることもあります。
溜まり乳なら「母乳分泌過多」に要注意
授乳後もおっぱいの張りがおさまらず、常に張っている状態なら「母乳分泌過多」の兆しがあるかもしれません。
赤ちゃんが飲む量よりも、母乳の分泌量が大きく上回る状態が母乳分泌過多です。
この状態になると、乳腺に母乳が溜まってしまい、乳腺炎などのトラブルを引き起こしやすくなります。
母乳が溜まらないようにするため搾乳しすぎると、「ストックをしなければ」と、母乳をつくる量がさらに増えてしまい、逆効果になります。
対処法としては、おっぱいへ与える刺激を減らすために、交互ではなく、片方ずつ授乳してみると改善する可能性があります。
また、張りで痛みがあるときは、保冷剤をタオルなどでくるんで乳房を冷やすと落ち着くでしょう。
授乳の頻度にとらわれすぎないように
実際に授乳をしてみると、妊娠から出産までの間に自身でネットや書籍から仕入れた情報や、助産師さんから指導を受けた方法の通りにできず、不安になることもあるでしょう。
なかでも気にしがちなのは授乳の頻度ではないでしょうか。
「3時間おきに授乳してくださいね」といわれて、その通りにしようとしても、赤ちゃんが寝ているとできない。
赤ちゃんが3時間も待てなくて泣いてしまう。
そんなことは当たり前のようにあります。
一般的に適度といわれている授乳の頻度が必ずしもお子さんに合うとは言えません。
「一般的に」といわれている情報にとらわれすぎず、赤ちゃんの体重や排せつの状態などを日々確認し、「健康に成長しているか」の方を重視しましょう。
授乳に限らず、情報通り、言われた通りにお世話をしても、想定通りにならないことは子育てをするうえで度々あるものです。
ただし、ママ・パパが安心するためにも、お子さんの発育や健康状態で気がかりなことがあれば、助産師や医師などの専門家に相談しましょう。
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